医院・クリニックの開業|知っておくべき建築基準法について
クリニック(医院、診療所)を、新たに建築物を建てて開業するとき、そのオーナーである医師は建築基準法の基礎的な知識を持っておいたほうがよいでしょう。
特に、有床のクリニックは特殊な建築物になるので、建築基準法で「どのような建築物にしなければならないか」が厳しく規定されています。同法の規定をクリアしていないと、図面の修正が必要になるなどして、建物の完成が遅れ、結果的に開業時期が遅くなってしまうかもしれません。
もちろん、医師が建築基準法のすべてに精通している必要はなく、クリニックに関わるところだけを押さえておけば十分です。
そこで、この記事では、開業する医師が知っておくべき建築基準法について解説します。
目次
そもそも建築基準法とは【予備知識】
建築基準法は、建築物の敷地、構造、設備、用途に関する最低限の基準を定めたもので、この基準をクリアした建築物しか建てることはできません(第1条、*1)。
そして同法に違反した建築物を建てた建築主や建築会社(工事の請負人)などは、3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科せられることがあります(第9、98条)。
建築物は、建築基準法が定めた基準に則って作らなければなりません。これはクリニックだけでなく、すべての建築物に共通する規制です。ただし、有床クリニックの場合には、さらに厳しいルールが課されるので、注意が必要です。
*1:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201
クリニックに関わる建築基準法【基礎知識】
有床クリニックと病院は、建築基準法第2条で規定されている特殊建築物に該当します。特殊建築物の建築は、一般的な建築物より厳しいルールが課せられています。
病院は20床以上、クリニックは19床以下または無床という区分けがなされていますが、特殊建築物かどうかは入院ベッドがあるかないか、つまり有床か無床かで決まります。1床でもベッドがあれば、そのクリニックは特殊建築物になります。
無床クリニック、つまりベッドがひとつもないクリニックの場合、その建物は一般的な建築物と同様なもので、特殊建築物である必要はありません。そのため、ベッドを必要としない治療を行うクリニックであれば、自宅などを利用して開くことも可能です。実際、クリニック開業者の中には、自宅をクリニックにして家業している人も少なくありません。
建築主事の確認と確認済証の交付を受けなければならない
有床クリニックを新たに建てようとするときは、市区町村に、建築基準法などの法令に適合しているかどうか確認してもらわなければなりません(建築基準法第6条)。
建築主(ここではクリニックを開業する医師)が建築確認申請書を市区町村の建築主事に提出し、それを受けた建築主事が確認します。そして問題がなければ、確認済証が交付されます。確認済証の交付は、建築工事に着手する前に受ける必要があります。なぜなら、この照明がないと、建物を建てることができないからです。
なお、建築済証の交付は新築のときだけでなく、増築、大規模修繕、大規模模様替えのときにも必要になります。
耐火建築物にしなければならない
有床クリニックは耐火建築物にしなければなりません(建築基準法第27条)。
耐火建築物とは、「特殊建築物から地上までの避難を終了するまでの間、通常の火災による建築物の倒壊および延焼を防止するために主要構造部に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合する」建築物のことです。
さらに、防火戸や防火設備も設置する必要があります。
避難と消火に関する基準をクリアしなければならない
有床クリニックには、避難と消火に関するルールが次のように定められています(建築基準法第35条と第35条の2)。
●廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラー、貯水槽その他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置、および進入口ならびに敷地内の避難上および消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準にしたがって、避難上および消火上支障がないようにしなければならない
●調理室、浴室その他の室でかまど、コンロその他火を使用する設備若しくは器具を設けたものは、政令で定めるものを除き、政令で定める技術的基準にしたがって、その壁および天井(天井のない場合においては、屋根)の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならない
有床クリニックは、設計の段階から、万が一のときに安全に避難でき、確実に消火できるような構造を意識しておかなければなりません。
病室に日光が差して換気できなければならない
有床クリニックの病室は、採光のための窓を設置しなければなりません(建築基準法第28条)。しかも窓の大きさは、病室の床面積の10分の1~5分の1の大きさにする必要があります。その窓は、換気もできるものである必要があります。そのため嵌め込み式の開かない窓ではなく、しっかり開閉が可能なもので設計する必要があります。
完成したあとも維持保全の義務がある
有床クリニックの新築の建築物が完成したあとも、建築主には建築物を維持保全する義務があります(建築基準法第8条)。
建築主は、クリニックの敷地、構造、建築設備を常時適法な状態に維持し、必要に応じて維持保全に関する計画などを作成し、適切な措置を講じなければなりません。
市区町村によって制限が加えられることがある
有床クリニックには包括的な制限が加わることがあります(建築基準法第40条)。
市区町村(地方公共団体)は、建築基準法の規制だけでは建築物の安全、防火、衛生の目的を十分に達せられないと認めたときは、条例で、建築物の敷地、構造、建築設備に関して安全上、防火上、衛生上必要な制限を加えることができます。
そのため、設計の段階で「建築物の安全、防火、衛生」が十分に達成されていることを確認してから着工に至るようにしましょう。不安がある場合には、プロの目で設計資料や図面などを見てもらうのもおすすめです。
その他の法律の規制
クリニックを開業するときは、建築基準法以外にも遵守しなければならない法律などがあります。
まずクリニックは、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)の規制をクリアしなければなりません。
「廊下を車いすが通過できる幅にする」「スロープをつける」「段差を解消する」、以上のことをクリアし、建築物全体をバリアフリー構造にする必要があります。
そして消防法にしたがって、誘導灯や非常警報の設置、内装の防炎加工が必要です。
さらに市区町村や都道府県は独自に条例を定めて規制しています。クリニックを建築するうえでは、それらの条例も守る必要があります。必ず関連資料を確認するようにしましょう。
以上のことから、クリニックを開業することを決めたら、保健所だけでなく、市区町村や都道府県の関係部署にも相談したほうがよいでしょう。
開業に必要な手続き
建築物の話題から外れますが、クリニックの開業に必要なその他の手続きを紹介します。
クリニックの開設日から10日以内に、保健所に対して診療所開設届を提出する必要があります。いきなり書類だけ提出しても受理してもらえないので、事前に保健所に開業について相談に行ってください。
「事前」が具体的にいつなのかというと「なるべく早いうち」となります。そのため、開業することを決めた時点でもかまいません。一度相談に行けば、保健所からクリニックのレイアウトや内装について助言や指示があります。クリニックの設計はそれを反映させたうえで検討していきましょう。
保健所が診療所開設届を受理すれば、それでクリニックを開業することができますが、この時点では自由診療(保険証の使えない、患者さんの全額負担による診療)しか行えません。
保険診療を行うには、地元の厚生局に保険医療機関指定申請書を提出して受理してもらう必要があります。
保険診療はクリニック経営の重要な柱になるので、保健所への診療所開設届と厚生局への保険医療機関指定申請書はセットで準備することになります。
さらに、必要に応じて次のような申請も行います。
●診療用X線装置備付届
●麻薬管理者・施用者免許申請書
●結核予防法指定医療機関指定申請書
●生活保護法指定医療機関指定申請書
●母体保護法指定医師指定申請書
●労災保険指定医療機関指定申請書
まとめ~法律の基礎知識があれば頼れる建築会社がわかる~
クリニック開業に向けた準備は多忙を極めます。
そのため、開業する医師は「建築物の法律ぐらい建築会社にすべて任せたい」と感じるでしょう。しかし、完成した建築物が法律をクリアしていなかったら開業できず、その損失は当然医師が受けることになります。
そのため、開業を目指す医師は、クリニック(特殊建築物)に関する部分だけでよいので、建築基準法の基礎を身につけておいたほうがよいでしょう。
そして、医師が建築基準法の基礎知識を持っていれば、建築会社に依頼した際、その建築会社がクリニック建築に詳しいかどうかを見極めることができるようになります。
クリニック建築に詳しい建設会社に依頼し、理想的なクリニック建設を目指しましょう。
クリニックの内装・設計に関するご相談はこちら
この記事の著者
フルサポクリニック編集部
医療、介護施設の設計施工を得意とする「FULLsupport」が運営。
当サイトではクリニックにまつわる設計や内装工事にまつわる記事を随時更新中