精神科・心療内科クリニックにおける内装のポイントとは
「クリニックの内装」と一口に言っても、求められるポイントはそのクリニックの科によって異なります。
ここでは「精神科・心療内科」をテーマにして、「精神科・心療内科の内装はどのようなものが望ましいのか」について考えていきます。
<精神科・心療内科の内装を考えるうえでは、「安全性の確保」が何よりも重要>
精神科においては、患者様の病態が急変したり、突然感情が揺れ動いたりする可能性を考慮する必要があります。
そのため、精神科・心療内科の内装を考えるうえでは、まずは「医療関係者の安全性が確保できる作り」にすることが何よりも重要です。
そこでまず、出入口はをつ以上設けることを推奨します。診察室にも待合室にも、突発的な事態が起きたときに避難することができるようにするために、「逃げるための通路」を確保しておくことが重要です。またこれらの出入り口は、「ただそこにあるだけ」ではなく、実際に使える状態にしておくこと、加えて不測の事態が起きたときにすぐに行動を起こせるようにするために、日頃から避難の練習をしておくことが重要です。
防犯カメラの設置も安全性の確保において欠かせないため、検討しましょう。
<「プライバシーの保護」も、精神科・心療内科においては非常に大切な要素>
精神科・心療内科が扱う病気は非常にセンシティブです。心が不安定な状況にある人は、「自分の病状をほかの人に知られたくない」と思う人も多いでしょうし、カウンセリングの途中でデリケートな話をしたり、患者様ご自身が人に話すことをためらうような過去の話が出てきたりすることもあります。どの科を扱うクリニックであってもプライバシーへの配慮は必要ですが、精神科・心療内科の場合は、よりそれが重要になってくる科だといえるでしょう。
このようなことから、精神科・心療内科のクリニックの内装は、できるだけ「音・声が聞こえないような作り」にすることが望ましいといえます。
そしてそのための対策として、以下のような方法が挙げられます。
・廊下や診察室を広く取る
立地や予算の関係もあるかと思われますが、可能な範囲で、精神科・心療内科のクリニックでは廊下や診察室を広くとることをおすすめします。診察室が広ければそれだけ待合室に声が響くリスクを少なくすることができますし、廊下が広ければ多少診察室から声が漏れても待合室まで響く可能性は低いといえます。
これは、現在診察している患者様のプライバシーを守ることはもちろん、待っている患者様の不安や気まずさを軽減するためにも役立ちます。
なお、当然のことではありますが、精神科・心療内科の診察室はすべて完全個室とします。「医師が診察を行う前にカウンセラーが聞き取りをする」という場合は、診察室とも待合室とも離れたところに完全個室のカウンセリングルームを設けるようにするとよいでしょう。そうすれば、診察室⇔カウンセリングルーム、カウンセリングルーム⇔待合室間で干渉しあいません。
・カーテンやパーテーションを積極的に利用する
カーテンやパーテーションを利用することでも、漏れる音を小さくできます。特にカーテンは、「屋内の声や音を、屋外に漏れ出ないようにするため」に非常に有効です。防音カーテンをつけた場合、つけていない場合に比べて、どのような周波数の音であっても音漏れを軽減することができたというデータがあります。
また、カーテンやパーテーションを設けることで、実際の遮音効果はもちろん、患者様が「人に声が聞こえにくい環境だ」という心理的安心感を抱くことができます。
出典:サウンドプルーフ「窓に防音カーテンを付けたら本当に遮音効果があるのか測ってみた!」
・防音性の高い建材などを使用する
精神科・心療内科の診察室には、防音壁を採用するのが原則です。また扉も完全防音の扉として、外に音が漏れないようにしましょう。
防音壁と防音扉を利用し、カーテンやパーテーションを使い、かつ廊下や寝室を広くすれば、診察室の声が待合室に漏れる可能性はほとんどありません。
ちなみに、防音壁の種類や音の種類にもよりますが、防音壁を取り扱う企業が出したデータのなかでは、「防音壁を採用した場合、採用していない場合に比べて、最大で聞こえる音の大きさを約8分の1まで減らすことができる」とされています。
出典:DAIKEN「【防音壁材の基礎知識】種類や防音効果についてわかりやすく解説」
・待合室は広くする。可能ならば個室も作る
精神科・心療内科に通う人のなかには、人と関わることが苦手だという人もよく見られます。そのため待合室は広くとり、患者様同士の距離が近くなりすぎないように配慮することが求められます。
また、予算やスペースに余裕があるのであれば、待合室として個室や半個室を用意するのもひとつの手です。特に小さいお子さんを対象とした精神科・心療内科を営むのであれば、個室や半個室があると安心です。
・メンタルクリニックであることを主張しすぎない外見にするのもひとつの方法
精神科・心療内科の場合は、その性質上、「精神科・心療内科に入る姿を人に見られたくない」と思っている人がいることも考慮に入れておかなければなりません。そのため、あえて外観だけではそこが精神科・心療内科クリニックであることが分からないようにしているところもあります。
また内装も、「いかにも病院である」という作りは来院する方に威圧感を与えてしまうため、過ごしやすく、穏やかな雰囲気の内装デザインにする必要があるでしょう。
<「威圧感のない内装」と精神科・心療内科の強み>
先ほど「威圧感を与えない内装」としましたが、もう少しこれについて詳しく見ていきましょう。
内装による緊張感が生まれると特に、精神科・心療内科では良い方向に働かないため、患者様にリラックスしてもらえる内装作りを心掛けるようにします。
ウッディな素材を多く用いたり、患者様の顔などが見えないような位置に大きな窓をこしらえたり、暖色の壁紙を採用したりといった工夫をすれば、威圧感のないクリニックが仕上がります。
また、精神科・心療内科は、必要な機材が少ないため初期費用を抑えることができ、その分を内装に充てることで他の科よりも優れた内装を実現できるというメリットがあります。
さまざまな事情を抱えた患者様が通院することとなる精神科・心療内科において、患者ひとり一人のニーズに応じた空間作りはとても重要なので、内装はこだわりをもって設計しましょう。
まとめ
精神科の場合、ほかの科とは異なった配慮が求められます。プライバシーをしっかり守れる作りにしたり、医療従事者の安全を確保できるようにしたりといった工夫が必要です。そして、なによりも患者様がリラックスできる環境が重要です。そのため、内装においては、落ち着いた色合いや温かみのある雰囲気を重視し、安心感や信頼感を高める工夫を行いましょう。
この記事の著者
フルサポクリニック編集部
医療、介護施設の設計施工を得意とする「FULLsupport」が運営。
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