テナントのクリニックと、それ以外のクリニックの違い
目次
クリニックを開業するとき、まず考えるべきこととして、「テナントで開業するか、それとも自分で土地建物を所有するかたちにするか」です。
ここではテナント開業とそれ以外のときの違いについて、主に内装面から解説していきます。
テナント開業とそれ以外のクリニックの違いその1~自由度が異なる
「テナント開業」とは、すでに出来ている建物の一部を借りて開業することをいいます。クリニックの場合は、ビルの一区画を借りる場合が多いと思われます。
テナント開業の場合は、自分で土地建物を所有する場合に比べて初期費用が安く抑えられるというメリットがありますし、都心部などの地価が高いところでも開業がしやすいというプラスポイントもあります。また、なんらかの事情で閉業・移転しなければならなくなった場合も、自分で土地建物を所有しているときとは異なり、比較的手軽に行えるのも大きな魅力です。
このように考えていくと、テナント開業の場合は「開業の自由さ・手軽さ」という意味では、自分で土地建物を持つ場合に比べて格段に有利だといえるでしょう。
では内装面に関してはどうでしょうか。
テナント開業の場合は、「すでにある建物」の区画を使って開業していくスタイルです。そのため、一から自分の好きなように施工・設計ができるわけではありません。広さもあらかじめ決まっているため、「広いリハビリスペースを確保したい」などのように考える場合は、これもネックになってきます。
特に事務所仕様(前の借主の設備が残っている状態)の場合は、自由度が大きく制限されます。場合によっては元の内装を処分するための費用がかかってくるからです。
ただ、「以前に入っていたのもクリニックだった」「前の人が残した内装を、使えるところはそのまま使う」という場合は、初期費用がさらに抑えられるというメリットがあります。
「テナント開業のメリットと、テナント開業の不自由さの解消を両立したい」という場合は、「スケルトン」と呼ばれる状態のテナントを選べばよいでしょう。
これは内装工事がまったくされていない状態の物件のことであり、梁や床、柱などがむき出しになっている状態です。事務所使用かつ以前の設備をできる限りそのまま使う場合に比べて内装費用は高くなりますが、その分自由な設計を行うことができます。
自由度 | 初期投資費用 | |
自己所有 | ◎ | 非常に高い |
スケルトン | 〇 | 高い |
事務所仕様テナント(撤去) | △ | 高くなることが多い |
事務所仕様テナント(そのまま利用) | × | 非常に安い |
テナント開業とそれ以外のクリニックの違いその2~水に関する設備の考え方が異なる
クリニックはその性格上、「水回りの設備」をきちんと整えておかなければならない施設です。クリニックの内装を考えるうえでは、水回りについて考える段階を必ず踏まなければなりません。特に排水管の配管ルートについてよく考える必要があります。クリニックには多くの人が来るうえ、器具の洗浄や洗濯機に大量の水を使うため、勾配をつけて効率よく排水を処理できるようにしなければならないからです。
「自己所有の物件である」という場合は、一から自分たちで作ることになります。クリニックの内装業者と話し合いをして、どこにトイレなどを設置すればよいかを、患者様やスタッフの行動動線を意識したうえで組み立てていくとよいでしょう。お湯が出る電気温水器などの設置も簡単にできますし、尿検査のための窓口なども自由に作ることができます。美容関係のクリニックであるのなら、洗面台・化粧スペースを広くとると喜ばれるでしょう。
テナント開業の場合は、「どのようなビルに開業するか」でやり方や自由度が大きく異なります。
たとえば医療ビル(さまざまなクリニックや薬局が入っているビルのこと)の開業の場合は、クリニック(やそれに関連する施設)が入ることを前提としているため、それを前提としたつくりがされています。車いすが通りやすい床の高さにされていたり、トイレの設置予定箇所と排水管の場所が近かったり(遠いと、連続使用によるつまりが起きやすくなる)するため、水回りの設備も整えやすいといえます。
反対に、一般的なビルで開業をする場合、このような仕様になっていないことが多いといえます。この場合は「どこにトイレを設置するのか」「新しい排水管を入れなければならないのではないか」などを考えなければなりません。さらに、ビルのなかには「新しいトイレを増設することはできない、今あるトイレのみを使用してくれ」としているところもあります。
このように、水回りの設備の配し方も、自己所有の物件での開業か、クリニックビルでのテナント開業か、それとも一般的なビルでのテナント開業かによって大きく異なります。
また、同じ「一般的なビル」であっても、つくりや規約には違いがみられます。そのため、一概に「ビルでのテナント開業の水回りの設備は、このようにすればよい」といえるものではありません。
ただこれらの水回りの設備に関する判断は、専門家でない人にはなかなか難しいでしょう。図面だけで確認しているときはもちろん、現地に足を運んでもなかなかピンと来ないケースが多いかと思われます。
そのため、水回りの設備について疑問がある場合は、専門家にお問い合わせください。
テナント開業とそれ以外のクリニックの違いその3~ファサードにも違いがある
「ファサード」とは「外観」のことです。ファサードは、内装と合わせて考えるべきことのうちのひとつであり、非常に重要なものです。どれほど優れた技術を持つ医師の経営するクリニックであっても、「そこにクリニックがあることがなかなか気づかれない」「入りにくい外見をしている」ということであれば、なかなか人は足を運べないからです。
クリニックのファサードは、「通りかかる人がすぐにそのクリニックであると分かること」を意識することが一般的です。大きな看板を立てたり、そのクリニックの扱っている科と親和性の高い外見にしたりといった工夫をすることが基本です(なおAGA治療や泌尿器科などデリケートな分野の診療科をメインとするクリニックの場合は、あえて目立ちにくい外見にすることもあります)。
ただテナント開業の場合は、この「ファサードの自由度」が非常に低いというデメリットがあります。基本的にはテナント開業の場合はファサードを変更することはできず、看板の掛け替えでの対応が精一杯だということが多いといえます。そのため、場所によってはそこにクリニックがあることをなかなか気づいて貰えないというデメリットもあります。
テナント開業におけるファサードの制限の厳しさは、内装の制限の厳しさ以上だといえるでしょう。
このように、テナント開業の場合は自己所有物件などでの開業に比べると、かなり制限が多いものだといえます。
ただそれでも、初期投資可能額が少ない状態でも開業に踏み切れるという大きなメリットが、テナント開業にはあります。
またすでに述べた通り、スケルトン物件やクリニックビルでのテナント開業の場合は比較的自由に設計ができますし、前の借主の設備を可能な限り生かすかたちでの開業ならば初期費用をさらに抑えることが可能です。
テナント開業とそれ以外のかたちでの開業は、どちらが良い・悪いといえるものではありません。先生がたそれぞれのお考えとクリニック経営方針に基づいて選んでいくとよいでしょう。
弊社では、テナントでの開業・自己所有物件などでの開業、どちらの内装工事も承っています。診療科ごとに、クリニックに最適な動線や患者様が過ごしやすい空間造りをご提案します。
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この記事の著者
フルサポクリニック編集部
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