確保できる敷地面積が狭い!「小さいクリニック」のレイアウトを考える
クリニックは、建築基準法や医療法、消防法やバリアフリー法によるチェックを受けます。たとえば医療法では、「診察室の面積の基準は9.9平方メートル以上」「廊下の幅は120センチ以上」などのようなものです。
「努力義務であって必須ではない」「地方公共団体によって条例には差がある」などの背景はありますが、安全で過ごしやすい場所であるために最低限の広さを確保する義務がクリニックにはあると考えるべきでしょう。
これを念頭に置いたうえで、「そのなかで、いわゆる『小さいクリニック』を上手く建てるためにはどのような点に注意をしたらいいか」について解説していきます。
クリニックに関わる建築基準法や医療法について詳しく知りたい方はこちら
「狭い!」と感じさせないための工夫とは
確保できる土地面積が小さくても、工夫次第で狭さを感じさせないクリニックを作ることはできます。これを可能にするポイントは、以下の通りです。
・ガラス張りで圧迫感をなくす
壁面が多いと、どうしても圧迫感が強くなり、「押し込められている」という感じが強くなります。そのため狭いクリニックの場合はガラスを上手に使い、閉塞感のない空間づくりをしていきましょう。
透明なガラスを使った場合はプライバシーの確保が難しくなりますが、すりガラスを使えばプライバシーにも配慮できます。また、待合室の場合は、「座ったときに人の顔が来るであろう位置」だけをすりガラス加工にして、それ以外のところは透明なガラスにするなどの対応も推奨されます。
なお歯科医院などの場合は治療スペースですりガラスを採用しても、大きな問題はありません。しかし産婦人科などのデリケートな科の場合は、たとえ小さいクリニックであっても、やはり「壁」を使うべきでしょう。
・待合室を極力シンプルに
後の項目でも触れますが、待合室は極力シンプルにします。
観葉植物の鉢植えなどは人をリラックスさせるために効果的なものですが、狭いクリニックの場合は導線を妨げる原因となってしまうので、これは置かない方がよいでしょう。
また狭いクリニックの場合は、どうしても待っている患者さん同士の距離が近くなってしまいがちです。しかしソファではなくチェアを利用すると、「個別のスペース」が確保できるようになるため、隣の人との間に一定の距離を置くことができます。
・基本的には車いすが入れる幅にする
極小のクリニックであっても、車いすが入れる廊下の幅を確保することは重要です。これは法律による定めを守るという観点からも重要ですが、何よりも「クリニックに訪れる人は、体のどこかに障がいを抱えている人が多い」という前提があるからです。クリニックは、そのような人にとって通いやすい場所でなければなりません。
ただし一部の科では、AGAクリニックや美容外科など、保険診療外の治療をメインとする科では、このような配慮を行う必要性が薄いです。
・必要な紙の書類以外は電子カルテで代用する
紙のカルテは、スペースを圧迫します。そのため、小さいクリニックの場合は、電子カルテでの管理がほぼ必須といえるでしょう。
ただそれでも、紙媒体の書類はなんらかのかたちで必ず発生します。そのため、「電子カルテだから、書類棚は一切必要ない」と考えるのは危険です。作り付けの書類棚は必ず作らなければなりません。
・白色などの膨張色を積極的に使う
狭いクリニックの場合は、狭さを意識させないための色選びも重要になってきます。
白色などの膨張色は、実際よりもそのスペースを大きく見せる効果があります。また暖色系(オレンジ色など)も膨張色に分類されます。
反対に、黒色や青色などに代表される収縮色はスペースを狭く見せます。収縮色は待っている時間を短く感じさせる効果があるため待合室に積極的に使われる色ではありますが、極小クリニックの場合は、「膨張色による圧迫感の解消」を優先した方が良いかもしれません。
<小さいクリニックで必要なもの、必要ではないもの>
小さいクリニックはスペースに余裕がないため、必要なもの・必要でないものを見極める必要があります。
・検査をするならトイレは必要
検査を行う科ならば、小さいクリニックであっても、ある程度の広さのトイレは必須です。尿検査のコップを置けるスペースをトイレ内に確保し、スムーズに提出できるようにします。
小児科の場合は子ども用のトイレも必要となりますが、「子どもも来るが、大人も来る」という場合は、子ども用のトイレを作るのではなく、洋式トイレに設置できる子ども用の便座を用意するだけで事足りるでしょう。
・科によってはキッズスペースは省略可能
小児科や産婦人科の場合は、キッズスペースはほぼ必須です。またそれ以外の科であっても、キッズスペースがあればベストです。
しかし科によっては、キッズスペースは省略しても構わないでしょう。たとえばAGAクリニックなどのように、「大人しか来ないであろう科」の場合は、キッズスペースを設ける必要性は極めて薄いといえます。
・テレビは今の時代は「必須」とまではいえない
待合室のテレビやリーフレット、ポスターは、情報の提供や啓蒙という意味では非常に有効です。1000人を対象としたアンケートでは、「待っている時間に、院内のテレビやポスターなどを見る」と答えた人が97パーセントにも上っています
ただ一方で、「待っている時間は何をして過ごすか」の質問の答えの第1位は、「スマートフォンを見て過ごす」でした。スマートフォンの普及率が100パーセントに近づこうとしている現在、多くの人はテレビ以外のひまつぶしの方法を持っているといえます。
このことから考えると、「クリニックの待合室にテレビを置くことは意味があるが、狭くてスペースがないクリニックにとってはテレビは必需品ではない」といえるでしょう。小さいクリニックの場合は、思い切ってテレビを待合室から撤去するのもひとつの選択肢です。
出典:iTICKETTV:「待合室での過ごし方」についてのアンケート
まとめ
利用できる土地が少ないなかでの開業であっても、工夫次第で広々とした印象のクリニックを作ることは可能です。必要なもの・必須ではないものを見極め、建材を精査し、色を考えることで、実際以上に広く圧迫感のない内装に仕上げることはできるのです。
私たちフルサポクリニックでは、クリニックの内装を専門に、極小クリニック様の内装も手掛けています。「こんなところに困っている」「厳しい条件のなかで、より良い内装を考えていきたい」という先生方は、ぜひ私たちにご相談ください。
この記事の著者
フルサポクリニック編集部
医療、介護施設の設計施工を得意とする「FULLsupport」が運営。
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